ハイブリッド会議の難しさと解決策を考える

はじめに

長らくコロナの影響で学会や研究会はオンラインでの発表が基本でしたが,最近になり現地での開催が増えつつあります.ただ,オンラインを完全に無くしてしまうわけにもいかない(色々と便利なところがある)ため,ハイブリッド開催という形が増えているような印象があります.

今回は,こういったハイブリッド開催の学会や研究会(この後はハイブリッド会議と呼びます)について間近で見たり,話を聞いてきた経験から,現状でのハイブリッド会議の難しい点と,解決策について考えてみたいと思います.今後自分が主催側に回った際に,どういう点に気をつければいいのか?について覚えておくための備忘録的な記事になります.ただ,出来るだけ客観的に書きますので,今後ハイブリッドでの開催を検討する人が,何に気をつければいいのかを考える参考になるかもしれません.

内容についてはぼやかしつつ,自分の経験・聞いた話を混ぜて書いています.なので現実には存在しないハイブリッド会議の話をしています.また,この記事は自分がこれまでに参加したハイブリッド会議について批判する意図などはなく,現時点でのハイブリッド会議の難しさについて考え,その解決策を探っていくことが目的になります.ハイブリッド会議について,主催者の方々に大変感謝をしております.ありがとうございました.また著者の所属するいかなる組織・団体とも関係のない,著者個人の見解です.

また,分野の関係上,参加者がPCの操作に慣れているという非常に有利な条件下であることに注意が必要です.

TL;DR

  • 非常に多数の要素が組み合わさってハイブリット会議は実現される.それらが自動化されていない(現状難しい)ため,他に仕事がある少人数での対応はおそらく難しい
  • 機材担当の配置が現在の最適解.会場のスタッフとの連携も確認しておく必要がある.
  • 会議場用のスピーカーマイクを活用して,会場の音声を直接オンラインに飛ばせるようにすると良いかもしれない

前提

この記事で前提としているハイブリッド会議は以下のようなものになります.

  • 現地での発表とオンラインでの発表がどちらも存在する
  • 現地には複数の発表会場が存在している
  • 国内での開催であり,時差を考慮する必要はない

うまくいっていたこと

以下の要素は現状はうまく回っているように思えます

  • それぞれのセッションにおいてスライドを投影して発表すること
  • 座長が現地・オンラインどちらにも対応すること
  • 現地・オンラインどちらからも質問を受け付け議論すること

ですので,これまで参加してきたハイブリッド会議では,全体を通してみたときに大きな問題は発生していないように思えます.発表は全体を通してスムーズに行われていましたし,質問も現地とオンライン上での質問をどちらもうまく座長が捌いているように見えました.質問もチャットシステムを使って管理することで,うまく捌けていました.そのため,現状でもハイブリッド会議はうまく回っていると言えそうです.

トラブルが発生しそうなところ

しかし,聞いた話などを総合すると,以下に示すようなトラブルも発生する可能性が高そうです(ハイブリッド・オンライン会議あるあるで,皆さんもご経験があると思います).

  • オンラインに画面共有がされていない状態で発表をスタートしてしまう
  • 音声が届いていない状態で発表をスタートしてしまう
  • 機材トラブルによりオンライン側の音声や映像が現地に投影されない

もちろんどれもすぐに対応すれば,発表自体に影響はないと思います.マイナーなトラブルにできます.ただ,ハインリッヒの法則という言葉があるように,今後のハイブリッド会議でこれらがメジャーなトラブルになってしまう可能性も考えられます.人間はミスをする生き物なので,ミスの余地があるとどうしてもミスが出てしまいます.なので,こういったトラブルが発生する原因であるハイブリッド会議の問題点について洗い出して,解決策を考えていく必要があると考えています.

問題点

問題点について考えていくと以下の問題が考えられそうだと思います.

  • 様々な機材・要素を管理する必要がある
  • 会場側の機材で管理できないものがある
  • 現地・オンラインどちらからも発表がある
  • オンライン側でトラブル発生時にバックアップが難しい

まず1点目の「様々な機材を管理する必要がある」です.これはハイブリッド会議の宿命で,現地のみ開催・オンラインのみ開催と比較して,どちらにも対応する必要があるため,圧倒的に管理する機材が増えます.簡単に挙げるだけでも

  • 現地スライド投影機材
  • 現地音声機材(マイク・スピーカー)
  • オンライン接続のためのビデオ会議ツール
  • 発表者のプレゼン用機材
  • 発表者のプレゼン用機材と各種機材の接続機器
  • オンライン参加者のための画面の共有
  • 画面を共有しつつ,会場のスクリーンに表示しつつ,発表者スライドを発表者の画面に表示する

などがあります.これだけたくさんの要素が絡むと,何かしらの問題が発生する確率がどうしても上がってしまいますし,組み合わせが大幅に増えてしまい,問題が発生した時に原因の特定に時間がかかったりしてしまいます.参加者によっては発表者スライドを手元のPCでチェックしながら発表したい場合もありますが,その場合にはミラーリング設定にできないため,共有していた画面が発表者スライドになってしまったなどのトラブルもよく発生するイメージがあります.

次に,「会場側の機材で管理できないものがある」も問題として挙げられると思います.現地での実施の際には,参加者の数によっては大きな会議場などを借りて行うことになります.この時,その会場のインターネットを使ったり,マイク・スピーカなどの音声機材を使うことになります.これらは場合によっては会場のスタッフの方が管理しているものの場合もあり,詳細がよくわからない状態のものもあります.そのため,トラブル発生時にデバッグが難しくなってしまう可能性があります.現地のみであれば,せいぜいスライド投影とマイクくらいですが,ハイブリッドでは上でも述べたとおり様々な機材を管理する必要があるため,こういった機材が増えてしまうことになります.

3つ目が「現地・オンラインどちらからも発表がある」です.これは当たり前のように思えますが,やはり厄介さをもたらします.具体的には,1つのセッション内でオンラインと現地の発表を切り替える場合に,この切り替えの際にトラブルが発生することがあります.現地開催でもセッション切り替わり時にトラブルが発生することはありますが,セッション間であれば休憩時間のため多少対応する時間が取れます.ところが,ハイブリッドではセッション中に切り替わりが発生するため,もしトラブルが発生した場合に,解決する時間が取れない場合が出てきてしまいます.また機材の近くには発表者しかいないため,運営する側が急いで機材のところに移動しないといけなくなります.

最後が「オンライン側でトラブル発生時にバックアップが難しい」です.現地であれば,マイクが使えずとも変わりのマイクを調達したり,そのまま喋ったりすることができるかもしれません.しかし,ハイブリッドとなると,マイクがなければオンラインからの参加者に声を届けることができません.しかも厄介なことに,オンライン参加者はトラブルが発生したことに気づきにくい(映像も途切れている場合には,まだ始まっていないのかと勘違いしてしまう)という問題が発生します.

おそらく全ては網羅できていませんが,それでも非常に多くの要素が絡んでくることがわかると思います.これらを手作業で運用するため,トラブルを完全にゼロにすることは現状では難しいかもしれません.問題の本質は,やはり,これだけ多数の要素を,自動化せずに,手作業で運用しているところにありそうです.

解決策

書いていて改めて思いましたが,ハイブリッド開催をトラブルなく終えるのは本当に難しそうです...ですがハイブリッド開催は現地で参加が難しい人が手軽に参加できたりと,多くのメリットがあるのも事実です.どうすればうまく開催できるかについて考えてみましょう.

個人的に思うのは,やはりトラブルをなくすことは上の通りで難しいため,トラブル発生時にすぐに復帰できる体制を整えておくことだと思います.具体的には,機材担当者を会場につけることだと思っています.それぞれの会場に1人機材について一手に担える人(設定やホテルの人の設定についてのチェックなども)を用意して,その人が設定などを管理する形です.現状は専任の人がいないため,どこまで設定ができているのかなどの情報共有も難しくなってしまいます.これを一手に担え常駐している人がいれば,トラブル発生時も復帰は素早く行えると思います.

もしどうしてもトラブルが発生することを防ぎたい場合には,強いて完全に同じ条件で発表させることが有効だと思います.つまり,現地の人もオンライン会議ツールに接続して画面を共有するなどし,現地の機材には一切触れない体制を取ることです.どうしても切り替え時にトラブルは発生するので,この切り替え作業を一切行わないようにすれば,トラブルは最小限に抑えられると思います.そのぶん,自由度は下がってしまいますが...

あと,細かいところで言うと,会議場用のスピーカーマイクを使うことは効果的だと思いました.具体的には

  • PCではビデオ会議ツールを立ち上げて,スクリーンに画面を投影し,その画面を共有する
  • PCに会議場用のスピーカーマイクを接続し設置
  • 発表者の音声はこれらとは完全に独立して,会議場のマイクとスピーカを使う

という形です. ポイントは,会場のマイクとスピーカをオンラインとの接続から完全に切り離してしまえることです.PCの音声を会議場のスピーカから出したり,マイクの音声を取り込もうとしたりすると,それだけ管理するものが増えます.一方で,この形式であれば,オンライン参加者の管理は,PCで完結するため,管理が楽になりそうです.声も会議場用のスピーカーマイクから出ますし,会場の音も,現地参加者と同じ音声が聞こえるようになります.

最後に

月並みな感想ですが,ハイブリッド会議は難しい...参加者が増えるとどんどん大変になると思います.機材管理が煩雑になる分,やはりそれに専任できる役職を増やすのはマストな気がします.その上で,考慮しないといけない要素を減らしていけば,トラブルを最小化できるのかもしれません.