ハイブリッド会議の難しさと解決策を考える

はじめに

長らくコロナの影響で学会や研究会はオンラインでの発表が基本でしたが,最近になり現地での開催が増えつつあります.ただ,オンラインを完全に無くしてしまうわけにもいかない(色々と便利なところがある)ため,ハイブリッド開催という形が増えているような印象があります.

今回は,こういったハイブリッド開催の学会や研究会(この後はハイブリッド会議と呼びます)について間近で見たり,話を聞いてきた経験から,現状でのハイブリッド会議の難しい点と,解決策について考えてみたいと思います.今後自分が主催側に回った際に,どういう点に気をつければいいのか?について覚えておくための備忘録的な記事になります.ただ,出来るだけ客観的に書きますので,今後ハイブリッドでの開催を検討する人が,何に気をつければいいのかを考える参考になるかもしれません.

内容についてはぼやかしつつ,自分の経験・聞いた話を混ぜて書いています.なので現実には存在しないハイブリッド会議の話をしています.また,この記事は自分がこれまでに参加したハイブリッド会議について批判する意図などはなく,現時点でのハイブリッド会議の難しさについて考え,その解決策を探っていくことが目的になります.ハイブリッド会議について,主催者の方々に大変感謝をしております.ありがとうございました.また著者の所属するいかなる組織・団体とも関係のない,著者個人の見解です.

また,分野の関係上,参加者がPCの操作に慣れているという非常に有利な条件下であることに注意が必要です.

TL;DR

  • 非常に多数の要素が組み合わさってハイブリット会議は実現される.それらが自動化されていない(現状難しい)ため,他に仕事がある少人数での対応はおそらく難しい
  • 機材担当の配置が現在の最適解.会場のスタッフとの連携も確認しておく必要がある.
  • 会議場用のスピーカーマイクを活用して,会場の音声を直接オンラインに飛ばせるようにすると良いかもしれない

前提

この記事で前提としているハイブリッド会議は以下のようなものになります.

  • 現地での発表とオンラインでの発表がどちらも存在する
  • 現地には複数の発表会場が存在している
  • 国内での開催であり,時差を考慮する必要はない

うまくいっていたこと

以下の要素は現状はうまく回っているように思えます

  • それぞれのセッションにおいてスライドを投影して発表すること
  • 座長が現地・オンラインどちらにも対応すること
  • 現地・オンラインどちらからも質問を受け付け議論すること

ですので,これまで参加してきたハイブリッド会議では,全体を通してみたときに大きな問題は発生していないように思えます.発表は全体を通してスムーズに行われていましたし,質問も現地とオンライン上での質問をどちらもうまく座長が捌いているように見えました.質問もチャットシステムを使って管理することで,うまく捌けていました.そのため,現状でもハイブリッド会議はうまく回っていると言えそうです.

トラブルが発生しそうなところ

しかし,聞いた話などを総合すると,以下に示すようなトラブルも発生する可能性が高そうです(ハイブリッド・オンライン会議あるあるで,皆さんもご経験があると思います).

  • オンラインに画面共有がされていない状態で発表をスタートしてしまう
  • 音声が届いていない状態で発表をスタートしてしまう
  • 機材トラブルによりオンライン側の音声や映像が現地に投影されない

もちろんどれもすぐに対応すれば,発表自体に影響はないと思います.マイナーなトラブルにできます.ただ,ハインリッヒの法則という言葉があるように,今後のハイブリッド会議でこれらがメジャーなトラブルになってしまう可能性も考えられます.人間はミスをする生き物なので,ミスの余地があるとどうしてもミスが出てしまいます.なので,こういったトラブルが発生する原因であるハイブリッド会議の問題点について洗い出して,解決策を考えていく必要があると考えています.

問題点

問題点について考えていくと以下の問題が考えられそうだと思います.

  • 様々な機材・要素を管理する必要がある
  • 会場側の機材で管理できないものがある
  • 現地・オンラインどちらからも発表がある
  • オンライン側でトラブル発生時にバックアップが難しい

まず1点目の「様々な機材を管理する必要がある」です.これはハイブリッド会議の宿命で,現地のみ開催・オンラインのみ開催と比較して,どちらにも対応する必要があるため,圧倒的に管理する機材が増えます.簡単に挙げるだけでも

  • 現地スライド投影機材
  • 現地音声機材(マイク・スピーカー)
  • オンライン接続のためのビデオ会議ツール
  • 発表者のプレゼン用機材
  • 発表者のプレゼン用機材と各種機材の接続機器
  • オンライン参加者のための画面の共有
  • 画面を共有しつつ,会場のスクリーンに表示しつつ,発表者スライドを発表者の画面に表示する

などがあります.これだけたくさんの要素が絡むと,何かしらの問題が発生する確率がどうしても上がってしまいますし,組み合わせが大幅に増えてしまい,問題が発生した時に原因の特定に時間がかかったりしてしまいます.参加者によっては発表者スライドを手元のPCでチェックしながら発表したい場合もありますが,その場合にはミラーリング設定にできないため,共有していた画面が発表者スライドになってしまったなどのトラブルもよく発生するイメージがあります.

次に,「会場側の機材で管理できないものがある」も問題として挙げられると思います.現地での実施の際には,参加者の数によっては大きな会議場などを借りて行うことになります.この時,その会場のインターネットを使ったり,マイク・スピーカなどの音声機材を使うことになります.これらは場合によっては会場のスタッフの方が管理しているものの場合もあり,詳細がよくわからない状態のものもあります.そのため,トラブル発生時にデバッグが難しくなってしまう可能性があります.現地のみであれば,せいぜいスライド投影とマイクくらいですが,ハイブリッドでは上でも述べたとおり様々な機材を管理する必要があるため,こういった機材が増えてしまうことになります.

3つ目が「現地・オンラインどちらからも発表がある」です.これは当たり前のように思えますが,やはり厄介さをもたらします.具体的には,1つのセッション内でオンラインと現地の発表を切り替える場合に,この切り替えの際にトラブルが発生することがあります.現地開催でもセッション切り替わり時にトラブルが発生することはありますが,セッション間であれば休憩時間のため多少対応する時間が取れます.ところが,ハイブリッドではセッション中に切り替わりが発生するため,もしトラブルが発生した場合に,解決する時間が取れない場合が出てきてしまいます.また機材の近くには発表者しかいないため,運営する側が急いで機材のところに移動しないといけなくなります.

最後が「オンライン側でトラブル発生時にバックアップが難しい」です.現地であれば,マイクが使えずとも変わりのマイクを調達したり,そのまま喋ったりすることができるかもしれません.しかし,ハイブリッドとなると,マイクがなければオンラインからの参加者に声を届けることができません.しかも厄介なことに,オンライン参加者はトラブルが発生したことに気づきにくい(映像も途切れている場合には,まだ始まっていないのかと勘違いしてしまう)という問題が発生します.

おそらく全ては網羅できていませんが,それでも非常に多くの要素が絡んでくることがわかると思います.これらを手作業で運用するため,トラブルを完全にゼロにすることは現状では難しいかもしれません.問題の本質は,やはり,これだけ多数の要素を,自動化せずに,手作業で運用しているところにありそうです.

解決策

書いていて改めて思いましたが,ハイブリッド開催をトラブルなく終えるのは本当に難しそうです...ですがハイブリッド開催は現地で参加が難しい人が手軽に参加できたりと,多くのメリットがあるのも事実です.どうすればうまく開催できるかについて考えてみましょう.

個人的に思うのは,やはりトラブルをなくすことは上の通りで難しいため,トラブル発生時にすぐに復帰できる体制を整えておくことだと思います.具体的には,機材担当者を会場につけることだと思っています.それぞれの会場に1人機材について一手に担える人(設定やホテルの人の設定についてのチェックなども)を用意して,その人が設定などを管理する形です.現状は専任の人がいないため,どこまで設定ができているのかなどの情報共有も難しくなってしまいます.これを一手に担え常駐している人がいれば,トラブル発生時も復帰は素早く行えると思います.

もしどうしてもトラブルが発生することを防ぎたい場合には,強いて完全に同じ条件で発表させることが有効だと思います.つまり,現地の人もオンライン会議ツールに接続して画面を共有するなどし,現地の機材には一切触れない体制を取ることです.どうしても切り替え時にトラブルは発生するので,この切り替え作業を一切行わないようにすれば,トラブルは最小限に抑えられると思います.そのぶん,自由度は下がってしまいますが...

あと,細かいところで言うと,会議場用のスピーカーマイクを使うことは効果的だと思いました.具体的には

  • PCではビデオ会議ツールを立ち上げて,スクリーンに画面を投影し,その画面を共有する
  • PCに会議場用のスピーカーマイクを接続し設置
  • 発表者の音声はこれらとは完全に独立して,会議場のマイクとスピーカを使う

という形です. ポイントは,会場のマイクとスピーカをオンラインとの接続から完全に切り離してしまえることです.PCの音声を会議場のスピーカから出したり,マイクの音声を取り込もうとしたりすると,それだけ管理するものが増えます.一方で,この形式であれば,オンライン参加者の管理は,PCで完結するため,管理が楽になりそうです.声も会議場用のスピーカーマイクから出ますし,会場の音も,現地参加者と同じ音声が聞こえるようになります.

最後に

月並みな感想ですが,ハイブリッド会議は難しい...参加者が増えるとどんどん大変になると思います.機材管理が煩雑になる分,やはりそれに専任できる役職を増やすのはマストな気がします.その上で,考慮しないといけない要素を減らしていけば,トラブルを最小化できるのかもしれません.

ワークショップに参加した話と雑感

はじめに

つい先日,仕事の関係で研究者のワークショップに参加しておりました.国内外の研究者が集まって,ある1つのテーマについて数日間をかけてさまざまな角度から議論を行い,そのテーマについて深掘りをしていくものです.また,コーヒーブレイクの時間にさまざまな議論を行い,今後の共同研究の可能性を探ったり,ネットワークを作ったりするものです.

こういったワークショップに参加するのは別に初めてでもなんでもないのですが,今回は国内外の研究者が集まって行うワークショップにおいて,初めて(自分が納得できるレベルで)議論に参加したり交流をしたりすることができたように思うので,その感動を忘れないうちに書いておこうと思った次第です.

なので,身のある内容は全くない完全な自己満足ポエムです.一般公開する日記のようなものというか,これまでのワークショップ参加時に何を考えていたかとか,そういった話を忘れないように書き留めて行うと思います.この気持ちが新鮮なうちの方が,ワークショップでうまくいかずに落ち込んだ気持ちとかの初心を忘れずにいれる気がするので.

また,自分がワークショップにうまく参加できなかった時のことも書いているので,その辺りの話が,これからワークショップに初めて初めて参加するという大学生の励みというか勇気づける何かになればいいなと思っています.

なお内容は完全な個人の感想で,所属する組織とかは一切関係ありません.あと,なんとなくぼやかして内容は書いております.

ワークショップとは?

研究分野にもよると思うのですが,私が所属する研究のコミュニティでは頻繁に行われているものです.会議の併設ワークショップなどの場合は,論文の発表があったりするなどもありますが,私が今回参加したのは,あくまでも特定のトピックについて様々な角度から議論するものでした.そのため,論文やスライドを準備して持っていく必要はないものでした.具体的なスケジュールとしては

  1. そのテーマのある部分(例えば,そのテーマが抱えている問題Aについての解決策)について少人数のグループで議論
  2. 議論した内容をまとめる
  3. まとめた内容をもとにそれぞれのグループで発表を行い,その内容をもとに全体で議論を行う
  4. コーヒーブレイク.休憩時間だが,グループや全体など堅苦しい雰囲気ではない場で,もう少し軽く議論を行う
  5. 以上を繰り返す

というイメージです.大学の講義のグループワークとかが近いのかもしれません.数日間これだけを何回も行うという点では違いがあります.

ちなみに,もちろん研究者が運営を行います.今回も主催をしてくださった方々には大変感謝をしております.

これまでのワークショップ

指導教員の先生のご厚意もあり,学部4年生の頃からこういったワークショップに参加をしておりました.ただ,以前に書いた通り,英語の問題もあり,これまでのワークショップでは,なかなかうまく議論に参加をできず悔しい思いをすることが多かったです.具体的には

  • 少人数グループに分かれた際に何をしゃべっているのか(議論の内容ではなく英語の聞き取り的な側面)を理解するのに必死になり,肝心の議論内容が頭に入ってこない
  • 議論内容が入ってこないから議論に入っていくことができない,まとめの作成もできない
  • なんとなくわかったところについても,自分の知識不足,本当に理解できているのかの不安,そもそも英語で文章を聞き取りながら自分の話す内容を組み立てらられない
  • 全体の議論でも同様の問題が発生
  • 発表者になるなんてとんでもない
  • コーヒーブレイクでは(一対一なので多少はマシだが)やはり議論の内容を含めた話に入っていけない

といった問題がありました.もちろん,最近は多少マシになっていて,上の全ての問題が発生したわけではありませんが,少なくとも学部生での初参加の際には上の問題は全て発生している状態でした.また学部生の頃は,そもそも研究分野の内容自体を理解しておらず,英語+内容を理解していないという状態だったので,今にして思うと議論にうまく入っていくのは厳しかったのかもしれません.実際,参加者は概ね博士課程学生以上というのが多いイメージがあります.ここで颯爽と議論の輪に加われたらかなりカッコよかったのですが,現実はなかなかに厳しいものです...

この頃は参加するたびに「今回のワークショップこそは,全体の議論にうまく寄与したい...!」という決意を持ちつつも,毎回あまりうまくいかずに歯がゆい思いをすることが多かったです.そのため,自分の能力不足をこれまでは感じていました.

今回はどうだったのか?

今回は自分の中ではある程度満足がいく程度には全体の議論に入って貢献できたような気がしています(もちろん,他の人から見たらまだまだだったかもしれませんが...).具体的には

  • 少人数グループにおいて,議論の方向性を決めたり,議論そのものに入ったり,まとめ方について議論したり,内容を議事録に書き起こしてまとめるなどを行う
  • 全体向けの発表を行い,質疑応答等を行う
  • コーヒーブレイクでも議論を行い,今後の共同研究の話などに発展させる

あたりができたためです.また,最後の部分などは,これまではかなり難しくワークショップ内での一時的な関係になりがちだった部分であり,個人的には成長を感じた部分でした.ワークショップの大きな目的のひとつであるため,そこに貢献できたというのはよかったです.

今回これらができたことの原因は色々と考えられると思います.あえて2つあげるとしたら以下が大きかったように思えています

  • 研究を続けてきたため,ある程度分野の知識がついた
  • 英語力が多少はついたため,議論に自信を持って入っていけるようになった

ワークショップの議論に入っていくというのは,自分の場合はかなり勇気が入ります.特に,「本当にこの内容を話しているのであろうか?」だとか,「自分の喋ろうとしている内容はまとを外していないだろうか?」というような不安がこれまではよぎっていました.ただ,今回は上にあげた2つの点が多少は改善したことから,ある程度自信を持って議論に入っていくことができました.精神論を殊更に持ち上げるつもりはありませんが,ある程度自信を持てたことが,今回自分が満足いく形で議論に参加できた要因のような気がしています.

なお,あくまで主観なので,まだまだ修練をしていきたいと思っております.

今回足りないと感じたこと

ただ,そうは言っても,まだ自分としては満足していない部分はありました.あげていくと

  • 少人数グループ・全体グループにおいて,全体に対して資するようなコメントを適切に何度も行う能力
  • 書記をしたりまとめたりする際に,議論内容を短く適切にまとめる力
  • 英語力

あたりがまだまだ足りていないです.最初の2つはもっと論文を読んで,自分の知見を増やしたり,それをまとめる修練を積んでいく必要があります.これらに関してはそもそも日本におけるワークショップ等に参加しても,同様の問題が出てくるため,研究者としての能力不足からきていると思っています.最後のやつは地道に頑張っていくしかないでしょう.

まとめ

ワークショップに参加し議論をすることで,研究におけるさまざまな知見を得られたり,新たな共同研究が生まれたりします.その点で,今後もたくさん参加をしていきたいと思っています.今回はその中の一つの節目のような気がしています.もちろんまだまだですが,今後も精進していきたいです.

TOEIC300点しか取れなかった私が大学でのんびり英語勉強をしたら英語を使って研究ができるようになった件について

はじめに

タイトルは某オンライン小説サイトっぽくしてみました.内容はどちらかというと王道少年漫画な感じです.つまり敗北を乗り越え成長していく物語です.

これは英語を全く使えなかった弱々な私(TOEIC換算で300点ちょっと)が,英語で研究をできるようになるまでにやったことをまとめたものです.最後に受けた時(博士後期1年?)で895でした.1

学生の英語の学習意欲というか,何かの参考になればという感じでまとめます.失敗談を大量に入れているので,「お,この人もこんなんやったんやな」という点でやる気を上げるのに使えます.ちなみに,いまだに英語をペラペラ喋れているという気はしません.なんか喋れているように見えると思いますが,ちゃんと聞けば実はそんなことはない

記事後半では,私が学習に使った参考書をまとめます.そっちだけ見てもらっても大丈夫です.

なお,以下の点は注意して読んでください

  • 書かれている内容は個人的な感想で,その学習の効果を示したり,意味がないことを示したりはしないこと
  • 英語の学習についてきちんと調べた上でやったことではないので,無駄なこととかも多いかもしれないこと
  • 一部記憶が曖昧なこと

理想

外国の人と英語で流暢に雑談したり

洋書や英語の論文をサラサラ読んだり

映画やドラマを字幕なしで観たり

めっちゃわかる.そうなりたい

多くの人の英語の勉強の最初のモチベーションってこういったものな気がしています.かくいう私も

  • 英語で外国の人と話さないといけない話したい
  • 英語の論文をもっとすらすら読まないといけない読みたい
  • 英語のニュースとか英語とかを理解できるようになりたい

この辺りが最初のモチベーションでした.ちなみに,現状はというと,程度の問題ではありますが,ある程度は上のことができるようになっています.程度の問題というのは,例えば,洋画を初見で見せられても完全に筋がわかる映画はまだ多くはないためです.ものによってはわかるといったところです.

とはいえ,最初はこれらはかなり高い壁に思えます.私もそうでした.最初の時は

  • 「how are you」「I'm fine thank you and you」というテンプレートしか使えない
  • なんか英語で長文が書いてあるけど,単語がわからず内容が入ってこない.
  • 洋画は暗号にしか聞こえない

というような状態でした.はっきりいって,理解できるようになる気がしないという気分でした.大体の人は初めはそうなのではないでしょうか?(自分がぶっちぎりでダメだったというだけの可能性もありますが...)

でもこんな状態だった人でも今の状態まではレベルを進められたので,諦めずに英語学習を頑張っていけば,研究をする上ではなんとかなる程度には英語ができるようになると思っています.

では具体的にやってきたことを見ていきましょう.

学習してきた流れ

高専4年生 (大学1年生相当)

もしかしたら高専3年生だったかもしれません.詳細は忘れましたが,初めてTOEICテストを受験したときです.初めてでさっぱりわからなかったです.問題文の読み上げすらわからないレベルです.結果,300点と少しという点数でした.将来は海外に行かなくて良い職業に就こうとこの時思いました.また,600点とか取れる人がこの世に存在するということが信じられませんでした.

とはいえども,この状態はよろしくないと思いました.大学への編入も考えていたので,流石に英単語くらいは勉強しておこうと考えました.なので,

をやるようになります.単語は1日1時間とか,シャドーイングは30分とか使って1つのセクションをやってた気がします.その後,高専卒業くらいまでは単語帳をやったりシャドーイングをやったりして日々を過ごしていきます.ただ,あんまり単語は覚えられなかった...特にこの時期は単語の学習方法の効率も悪く,1時間使って20単語を覚えようとしていたりしました.英語の先生にも1日にやる単語数はとにかく多くして,繰り返しやることが重要と言われていたのに....

そして,ここで1つ目の大きなターニングポイントを迎えます.私が通っていた高専では4年生から研究室配属されるのですが,その研究成果を高専とアジアの大学が共同で行うシンポジウム(台湾で行われました)で発表することになりました.ちなみに,この時点では英語の5文型2すらよくわかっていない状態です.発表はもちろん英語です.

あんまりよろしくないなとは思っていたのですが,何故か謎の自身に満ちていました.というよりも,もうどうしようもないので開き直ってしまえという感じでした.発表の時の記憶はいまだに鮮明に覚えていますが

  • 20分の発表を14分で終える
  • 5つ質問をもらうのに1つもまともに回答できない
  • そもそも回答に成功しているのかもわかっていない

というような状態でした.この経験で「英語の勉強しなきゃ」という気持ちを強くしました.

ちなみに,他の学生との交流会も行われていたのですが,それはかなり楽しかったです.台湾の学生で自分と同じくらいの英語力の学生や,圧倒的に上手い学生やらと交流できたのは普通に楽しかったです.

大学3年生

高専から大学に編入しました.上の経験もあり,英語の勉強をしなきゃ+友達を作りたいという気持ちで,英語のクラブでもあれば入ろうかなと探していました.すると,ちょうど,自分の入学の時期に合わせて図書館で留学生と交流ができる定期イベント3が開催されていたので,そこに週2回1時間ずつくらいで顔を出すようになりました.そこでお勧めされた動画を観たり本を読んだりするようになりました.電車通学をしていたので,単語帳は通学時間でやりつつ,他の時間で動画を見たり本を読んだりを30分くらい毎日やるイメージです.

このイベント関連で,留学生に対して日本の文化を紹介するチューターをやるやつもあったので勢いで応募して,しばらく留学生の人と交流を持ったりもしてました.1週間に1回とかのペースであって話してました.私はほとんど英語が喋れなかったので,ジェスチャーと簡単な単語でなんとかしていた感じでしたが...

一方で,この時期はまだ英語の基礎も何もあったもんじゃないので,それほど大きく英語力が伸びた感じはしませんでした.ただ,

  • 英語で会話することへの障壁の低下
  • 英語のコンテンツに触れる経験

はかなりすることができました.この経験のおかげで,以降のアウトプット・インプットを抵抗なく色々とできるようになります.また,海外派遣時の英会話も(会話はできないですが)入っていくことができました.

大学4年生

研究室に配属されました.ここから色々と加速していきます.

まず,英語の本を読む輪読をすることになります.しかし,当初の私は英語がほとんどわからない状態.当然悪戦苦闘します.でもやらないわけにはいかないので,辞書片手に全訳して,それを読み返してまとめるということをやっていました.4

また,英語の論文にも触れるようになりました.最初は統計的因果推論の論文を読んだのですが,ほとんどの単語がわからなかったので,片っ端から紙に書き出していって,その意味を調べ,ひたすら暗記していきました.電車の中では大体この単語を暗記しているか,単語帳を読んでいるかでした.

そして,これが2つ目の大きなターニングポイントだったのですが,師匠が色々と手配をしてくださって,この夏に1ヶ月間カナダの研究室に派遣されることになりました.5私自身はあまり自信がなかったのですが,師匠に背中を押されて行きました.結果的にはこの体験は非常によかったため,師匠には非常に感謝をしております.6

派遣先ではお昼ご飯をみんなで一緒に食べる会を毎日やっていました.そんな中に英語が喋れない+まだ専門的なことも対して知らないという学生がやってきました.当然会話に入れません.1ヶ月いましたが,自分が喋ったのは全部で3文くらいだったと思います.やっぱりひどい.また研究ミーティングもよくやってもらっていたのですが,空で英語を喋れる自信がなかったので,前日に1-2時間かけて資料と説明内容を準備していくようにしていました.でもやっぱりうまくは喋れませんでしたが...

しかし,この経験のおかげでだいぶ覚悟が固まりました.英語を喋れなきゃ研究者としてやっていけないということがよくわかったので,帰国後に英語の勉強をする大きなモチベーションになりました.特に,同時期に派遣先の研究室に配属された某学生の脅威的な英語力7などを見て負けてたまるかと思いました.

ちなみに,派遣中は日本から来ていた先生方にも大変お世話になりました.色々なところにご飯を食べに連れて行ってもらったりBBQに誘っていただいたりしました.

帰国後から英語の勉強をがっつりやるようになります.具体的には毎日以下をやってました

  • 英単語帳を何回もやる
  • 基本的な文法(SVCなど)を覚えるのと,例文を覚える
  • 英会話をやる
  • 英語を継続的に使うために共同研究をやる

そもそも単語がわからんと話にならんということがわかったので,英単語帳はこの時期から頻度を上げてやるようになりました.また,何やら文法というものが英語を理解する上で重要そうだということがわかったので文法をやり始めます.それまでは,英会話しとけばいつかは喋れるようになるのではくらいのことを考えていましたが,そんなことはないと感じるようになります(ちなみに,これは大学院の英語の講義でその理由について説明があり伏線回収にカタルシスを感じることになります).

図書館のイベントには頻度を上げて通うようになりました.インプットだけではなく,実践(いわゆるアウトプット)もやった方がモチベーションを維持できると思ったからです.また,派遣から帰国後に新しい研究プロジェクトを立ち上げて,派遣先との共同研究も開始しました.こちらもアウトプットの場があった方がモチベーションが維持できると考えたからです.研究ノートも英語で書いたりしていました.これらの場のおかげで,日常的に英語を使わなければならない状態を作ることができました.

そして,1月ごろに某所で開催される会議に出席しました.この時,日本人学生たちと知り合うことになります.特に今も親交のある2人の学生8と出会って,大きな衝撃を受けます.それまで会ってきた英語が堪能な学生はほとんど外国人だったのですが,その2人は英語が非常にうまく,自分でも頑張れば英語が喋れるようになるのではという思いを強くしました.

また,会議では他の参加者と昼食を共にする機会が多かったのですが,やっぱり喋れず悔しい思いをすることになります9.なので,見返してやろうという気概も持つようになります.

修士1年生

大学院に入ります.色々と英語の勉強に真面目に取り組み始めたおかげか少しづつ英語をしゃべることができるようになってきます.もちろんまだまだですが.

さて,この年ですが,6月ごろから昨年と同じ研究室に今度は2ヶ月派遣されることになります.しかも,派遣先の教授が英語の勉強になるだろうということで,同じ時期に研究室に来ることになっていた某英語ネイティブ学生10とルームメイトとなるよう手配してくれます.なので,朝から晩までその人といるので,かなり強烈なアウトプットの経験となりました(勉強してて良かった...)

ただ,ランチミーティングではまだ悔しい思いをすることも多かったです.なので,やはりまだまだだなということがわかったので,勉強を頑張っていこうと決意することになります.ちなみに,研究のミーティングもこの時期はまだまだだったのですが,同時期に派遣されていた某先生に非常に手厚くサポートしていただきなんとかなりました.多分このサポートがなければ,これほど良い経験にすることはできなかったので,大変感謝しています.

そして,この時期から英語の論文を読む量がだいぶ増えてきます.論文を書く量が増えてきたため,サーベイしなければならない範囲が大きく増えたためです.これによって意図せず多読の経験を積むことになります.

この効果により英語のインプットの量が増えてきて,単語の覚え方が変わってきます.具体的には,単語は少ない個数を完璧に覚えていくよりも,より多くの単語を毎日やって,繰り返しの回数を増やすべきということを学びます.機械学習風にいうと,ミニバッチのサイズを大きくしつつ,イテレーションの回数も増やすイメージでしょうか?高専の時の英語の先生も言っていたことですし,色々な英語の学習の記事でも言われていたことです.

最終的には,帰国後の電車通学でですが,毎日200単語くらいは通学時間で覚える(というより触れる)ようにしていました.また,復習する時期を次の日,1週間後,1ヶ月後というふうにやるようにしました.これのおかげでだいぶ覚えられるようになった.

帰国後にすぐにまたカナダに行きたくなってきます.そこで,留学資金はないかと探していたところ,トビタテ!留学JAPANという奨学金を見つけます.応募してみたところうまく拾ってきただけたので,次の年に再度カナダに行けることが決定します.これをモチベーションとして英語の勉強を継続します.

また,大学院の授業で英語の講義をたくさん取るようにしました.そのおかげで,英語の文法について再度学び直すことができました.文法の大切さをより強く感じたため,English Grammer in Useを買ってより勉強するようになります.

そして,Netflixを使った英語の勉強もするようになります.具体的には,cc字幕付きの英語のドラマを観てました.

  • まず字幕なしで一回観る
  • 字幕付きで一回観る
  • わからなかったところは日本語にして観る
  • 気になったところは何回か観て覚える

ただ,最初はあんまり効果的ではない(内容がほとんどわからない)状態だったので,あくまでサブ的な感じでやってました.しかし,英語の学習を進めていく過程で結構効率的にできるようになっていきます.今もこれに関してはよくやっています.

修士2年生

1年間カナダにいました.今回は1人暮らしでした.すでに2回経験していたこともあり,かなり順調11に暮らすことができました.また,Netflixの動画を英語で観ての勉強が少しづつできるようになってきて成長を感じ始めます.

また,友達も増え始め,一緒に誕生日会をしたり,学会に行ったり,その道中一緒の車でひたすら話したり,英語の映画を観に行ったりするようになり,かなり自信がついてきます.

インプットでは,やっぱり基礎力ということで文法書をひたすらやります.ただ,単語帳をひらく機会は減りました.その代わりに読む量が増えていきます.

博士課程から現在

博士後期の最初の年に腕試しにTOEICを受験してみたところ,上にも書いた通り895点を取れました.もちろんTOEICを受ける前にTOEICの関連の単語や熟語などは覚えました.

目標としていた900は届かなかったのですが,ある程度は英語がわかるようになってきたのではないかと考えるようになりました.そして,まだまだレベルとしてはペラペラには程遠いなということも実感しました.

また,コロナ禍の影響で海外派遣が滞ってしまったので,少しモチベーションがダウンすることになります.

ただ,最近ようやく海外派遣再開の兆しが見えてきたので,また英語の勉強を再開しようかと考えています.

まとめ

かなり雑多な記事になってしまいました.また,勉強そのものよりもモチベーション維持に関する話が多くなってしまった気もします.

こうやってまとめてみると,主にやったのは

  • 単語を覚える
  • 文法を覚える
  • 多読する
  • 英語の映画やドラマを観る
  • アウトプットを行う

という当たり前のことばかりでした.ある程度は満足いく状態になったのが博士課程に入ってからで,高専4年生から数えると大体6年くらいかかっています.なので,これらの勉強を続けていく上でのモチベーションを維持することが大切なのかもしれません.

こういった記事はネット上に無数にあります.n番煎じな記事です.なので,この記事の目的としては「あの人はこんなふうに勉強したり失敗したりして,現状だとあれくらいの英語のレベル感なのか」ということを伝える意味合いが強いです.私のことを知らない人は,ネット上にもっといい記事がたくさんあるので,そっちを読んだほうがいいかもしれないです.

少しでもこの記事が皆さんの英語学習の参考になれば幸いです.

最後に勉強に使った教材をリストとしてまとめます(抜けがあるかもしれないですが,概ねこのあたりを使いました)

勉強に使った教材リスト

ジャンルごとにまとめてみた. 特に順番は気にせず書いていきます.

単語帳

  • 荻野治雄【監修】,データベース4500 3rd Edition,桐原書店,2008
    • 多分一番繰り返した単語帳
  • 神部孝,TOEFLテスト英単語3800 4訂版,旺文社,2014
    • 2番目に多く繰り返した単語帳
    • TOEFL解けるようになりたいと思って買った
  • 投野由紀夫,フェイバリット英単語・熟語(テーマ別)コーパス4500,東京書籍,2015
    • 初めて手をつけた単語帳
    • ある程度の回数はやった思い出がある
  • 鈴木 陽一,DUO 3.0,アイシーピー,2000
    • 有名なやつなので購入した.
    • 楽しくやれた思い出
  • TEX加藤,TOEIC L & R TEST 出る単特急 金のフレーズ (TOEIC TEST 特急シリーズ),朝日新聞出版,2017
    • TOEICを受験するにあたって購入した
    • 2回くらいはやった

熟語帳

  • 神部孝,TOEFLテスト英熟語700 4訂版,旺文社,2014
    • 熟語勉強のために初めて買った本
  • 花田徹也,新TOEIC TEST文法特急,朝日新聞出版,2009
    • TOEIC向けに買った本

文法

  • 石黒昭博,総合英語Forest 6th edition,桐原書店,2009
    • 高専の英語の授業のために買った.ただいまだに何度も読み返している.読めば読むほど面白くなってくる
  • Raymond Murphy,English Grammar in Use Book with Answers: A Self-Study Reference and Practice Book for Intermediate Learners of English,Cambridge University Press,2012
    • 非常に有名な文法の本.
    • 英語で書かれている
    • 文法の持つイメージを結構学べる

発音

  • 発音図鑑
    • Apple Storeで買ったアプリ
    • 発音の時に舌の形や口の形はこんな風にやるんだというのを学んだ

その他

  • 薬袋善郎,基本からわかる英語リーディング教本,研究社,2000
    • 研究室の先輩に教えていただいた本.これもめちゃくちゃ繰り返しやった
  • W.L.クラーク,アメリカ口語教本・初級用,研究社,2006
    • 高専の時の英語の授業のために買った.
    • シャドーイングのために何回も使った
    • 発音がかなりゆっくりなのでやりやすい
  • W.L.クラーク,アメリカ口語教本・中級用,研究社,2006
    • 初級編はやり込んだので中級編も買った
    • こっちは発音が少し早い.
  • Netflix
    • cc字幕付きのドラマとかを観た
    • この文法はこういうニュアンスがあるのかみたいなことを学んだ
  • オンライン英会話
    • 2ヶ月ほどやってやめました
  • 図書館でのランゲージエクスチェンジイベント
    • 本文内の図書館でのイベント
    • これは大学を修了するまで続けました
    • 楽しいのでおすすめ.成長も実感できます.
  • 留学生チューター
    • 在学していた大学では留学生の疑問等に答えるチューターというのができた
    • 学部4年から大学院1年終わりまでやっていた
    • 結構楽しかった

  1. 900を超えていないので,まだまだではあるのですが...

  2. SVCとかのやつです.どう考えても酷すぎる...

  3. 初期は英語の動画を見る会をやったりしていて,後半はほぼ毎日外国人留学生が来ていて英語で色々なおしゃべりができました

  4. 初めての輪読会での発表はボロボロだったのはほろ苦い思い出...他のB4学生は優秀だなーって思ったりしました.

  5. 英語がほぼ喋れないB4学生だったのに,この機会を頂けたのは本当に感謝しています...

  6. そして,これをきっかけにカナダに派遣されるたびに何かしらのトラブルを引き起こすというトラブルメーカーぶりをはっきするようになります.

  7. この学生はその後トップジャーナルに3年で3-4本くらい書いてあっという間に博士を取って修了していきました.凄かった...

  8. わかる人はわかる気がしますが...

  9. 詳細には書きませんが色々と悔しかった

  10. 彼はジェントル,頭がめっちゃ良い,料理がうまい,生活力が高い,イケメンという超ハイスペックマンでした.

  11. あくまでも自分の過去の経験と比較してです

研究プロジェクトにおける再現性を考慮したディレクトリ構成

はじめに

研究を行う上で研究結果の再現性は非常に重要です.例えば,論文を書いて査読をしてもらって,査読コメントを元に修正をするときに,結果を再現できないと非常に困りますし,論文の内容の正しさを示すという点でも再現性は担保するべきでしょう.

一方で,我々ソフトウェア工学分野においてはこの再現性の担保に利点があります.なぜなら,全ての実験をスクリプトとして記述して保存をしておけるためです.また,GitHubなどを利用すれば,簡単に再現用のスクリプトを全世界に公開することもできます.

ですので理想としては

  • 仮説を立てる
  • 仮説を検証するための実験計画を作成する
  • 実験計画を元に実験を行うためのスクリプトを作成する
  • スクリプトを実行して結果をまとめて論文にする
  • スクリプトをまとめて公開する

このような手順を踏んでいきたいです.

ただ,そうは言っても現実はなかなかうまくいきません.

  • ある実験に使ったスクリプトがどこにいったかわからなくなったり,
  • 追加の実験のしすぎでどのスクリプトがどの結果に対応しているのかわからなくなったり,
  • スクリプトと結果はあるけど,どの条件での実験なのかがスクリプトを一から全部読まないとわからなかったり

様々な問題が発生します. これらの問題が発生するのは,様々な仮説のもと実験を行ったり,実験結果を説明するための追加の実験を行ったり,少しづつ条件を変えた比較実験をしたりと研究の特性上避けられない部分に起因していると思っています.

この記事では,このような問題をできる限り軽減するべく行っている私のスクリプトの管理方法を紹介します.

ディレクトリ構成

以下でディレクトリ構成について説明します.私の場合ある研究プロジェクトResearch Aがあった場合,ResearchA/というディレクトリをプロジェクトのルートとして,その直下に以下のようなディレクトリ郡を作成します.

  • exp*: 実験のスクリプトが入っているディレクトリです.各番号ごとに異なる実験が行われています (exp1やexp2といった形).
  • docs: 各実験の説明が書かれたドキュメントが入っています.具体的にはexp1.mdというようなファイルを生成して,その中に,exp1でどのような実験が行われているのか,どんなスクリプトがあるのか,得られた結果は何かなどをメモしています.
  • data: 実験に必要なデータを保存しておくためのディレクトリです.基本的には素の状態のデータを保存しておきます.ここではdataとなっていますが,取得したデータによってディレクトリ名を色々と変えています.
  • repository: 私の場合はソースコードリポジトリを使用する場合も多いのですが,リポジトリはdataと分けて管理をしています.
  • common: よく利用するスクリプトがまとまったディレクトリになります.例えば,Gitリポジトリからコミットハッシュの一覧を取り出すスクリプトなどです.パッケージ化する前のものが入っています
  • slides: 進捗報告などのために作成した資料が入っています
  • tables: 適当なtexのテンプレートが入っています.何をするかというと,各実験で作成された表のデータ(tex形式で出力しています)を読み込んでpdf形式で出力するというものです.
  • papers: 関連研究の論文を入れています.分野ごとに分けることが多いです.

ドキュメントの構成

docs/の中のドキュメントには以下のようなことを最低限書き込んでいます.

  • start date: 実験開始日
  • Abstract: 実験の仮説,どうしてその仮説を考えたか,予想される結果,何を明らかにしたいかなどを書きます
  • Scripts: どのようなスクリプトを作ったかをスクリプトごとにまとめて書いておきます.箇条書きで,何をするスクリプトか,どのような条件を設定しているのか,出力は何でどこに出力されるのかくらいを書いておきます
  • How to get this result?: スクリプトの実行順序を書いておきます.データの準備が必要な場合などに忘れないようにするためです.
  • Results: 結果がどうであったのかを書き込みます.また,私の場合その結果に対する思考も書いておきます.

なお,これらはAbstract以外は順番に書く必要はなく,行ったりきたりしながら書いています.特に,実験をしてResultsが出た後に,その結果を元にもっと調べたいことがないのかを考え,それを追加するということはよく行います.

運用方法

基本的には以下のような手順で運用しています.

  • docsにexpN.mdというファイルを作成し,実験計画や,実験の概要や背景を記載する.
  • expNというディレクトリを作成する.
  • docsのexpN.mdを更新しつつ,expNに必要となるスクリプトを作成していく.expN.mdには各スクリプトの説明も書き込む
  • 実行して,結果をexpN/の中に出力させる(plot,data,tablesなどのディレクトリ)
  • tablesに表のデータが出力されたら,それをtable/でtexのテンプレートに流し込んで表をpdfで作成する
  • docs/expN.mdに結果を記載する(もしくは,重要な点を記入する.)

このような手順となっています.実験ごとにディレクトリを分け,それぞれのディレクトリにドキュメントを付けているため,後からどのディレクトリでどのような実験を行ったかを見失いません.また,各スクリプトに対する説明も書いてあるため,どのスクリプトがどの条件なのかなども見失いません.

実験をどの程度の粒度で分けるかですが,私の場合は,「AメトリクスとBメトリクスの相関はどうなっているのか?」くらいの粒度では分けずに,「あるプロジェクトにおけるメトリクスの特性は何か?」くらいの粒度で分けています.この辺りは好みかと思いますが,あまり小さすぎるとexpNが乱立しすぎてしんどくなりました.

似通ったスクリプトについては適宜該当コードを抽出してcommonにまとめます.複数の研究プロジェクトで共通して使うようなものについては,パッケージ化も検討しましょう.

論文を書く段階

論文を書く段階になって忘れがちなのが,論文に載せている結果がどの実験スクリプトと対応しているのかをメモしておくことです.これを忘れると,論文を読んで,その論文内容と合致するスクリプトを探しに行く必要があって結構しんどいです.個人的におすすめなのは,全ての表,図,文章内の実験結果からの記述に対して以下のような情報を書き込んでおくことです

%% ============================================================================
%% PLEASE DON'T REMOVE THIS COMMENT
%% ============================================================================
%% exp40/tables/corr.csv
%% exp40/compute_correlation.py
%% exp40/make_corr_table.py
%% ============================================================================
%% ============================================================================ 

こうしておけば,あとで論文を見返したときに,「ああ,この結果は,exp40/tables/corr.csvなんだな.そして,この結果は,compute_correlation.pyとmake_corr_table.pyから生成されるんだな」ということがすぐにわかります.

Q&A

  • 問. このやり方では大量の似通ったソースコードが生成されるのでは?
  • 答. commonに適宜抽出はしますが,確かに似通ったコードが大量にできます.ただ,再現性を担保したいという狙いがあり多少はいいかなと思っています.

  • 問. Gitのコミットハッシュを使えばわざわざexpなどで分けなくても済むのでは?

  • 答. Gitのコミットハッシュを使ってバージョンで管理するということも検討しました.一方で,その場合にドキュメントの書き方が難しかったり,少し戻ったり大きく戻ったりをして違う実験をするためにブランチを作ってみたいなことをしていると,Gitの歴史がすごいことになってしまうため,このような形で落ち着きました.Git自体は使って,バックアップをしたり,diffを管理したりしています.

おわりに

すぐに思いつく内容を思うままに書いてみました.上の方法で嬉しいのは

  • ドキュメントを全部読み返せば,全てのスクリプトの意味がわかること
  • expごとに分けているので,あとですぐに再実験をしたり,結果を確認したり,条件を確認できたりすること
  • 論文に載せた結果がどこからきているのかがすぐにわかること

などです.

もし使ってみての感想などがあれば教えてもらえると嬉しいです.

論文構成レビューで手戻りを減らそう

これは何?

みなさん論文を書いていますか?論文を書くのはとても難しい作業で,何回書いても何回書いてもなかなか良いものを1回で作成することは難しいです.特に,研究を始めたばかりであれば,一部の例外を除けば最初の論文作成は多くの書き直し,章構成の変更,実験のやり直しなどを行うことになるかと思います.1

ただ,構成の変更に関しては,予め構成をレビューしてもらえれば防げる問題であり,かつ,手戻りの際のエフォートが大きいので,構成案を先に作成してレビューをしてもらった方が効率的な印象です.マスターやドクターの学生にレビューをしてもらうだけでも,ちゃぶ台がひっくり返る2ことは少なくなると思います.

また,構成案段階でのレビューでは,文章の量が少ないため,内容に矛盾がないかなど意味的な繋がり,ストーリーラインのチェックなどがしやすくなるという利点もあります.すごいぞ!論文構成案レビュー!

ところが,この論文構成案をどれくらいの粒度で書けば良いのかがなかなか曲者です.特に初めて論文を書く人にすれば,そもそも何を書けば良いのかがわからなくなってしまいがちです.

そこで本記事では,ドクターの学生から見た,どれくらいの粒度で論文構成案を書いて見せてくれると助かるかを解説します.解説のために1つ論文構成案を示していますが,この構成はあくまでも一例である点に注意してください.なお,私はソフトウェア工学を研究している学生であり,他の分野では事情が異なる可能性があります.あくまでも一例として参考にしてください.カッコで囲まれた部分は,各々の研究の具体的な内容に置き換えてもらうと読みやすいかと思います.

論文構成案の例 (以下のカッコで囲われた箇所を具体的な内容に書き換えたものがあるとレビューがしやすくなります)

アブストラク

はじめに

  • [具体的な研究背景]について説明する.
  • [具体的な研究背景における問題点]について説明する.
  • [解決策として用意したもの]について説明を行い,また,これを採用した理由を述べる.
  • 実験対象のデータの説明
  • 研究設問
    • [RQ1]について,その動機と結果について簡単に述べる.
    • [RQ2]について,その動機と結果について簡単に述べる.
  • 本研究のコントリビューションとして[コントリビューション1-N]について述べる.

関連研究

  • [研究背景]に関する論文をまとめる
    • [代表的な論文1-Nと簡単なその内容 (1文程度)]
  • [研究背景における問題点]に関する論文をまとめる.
    • [代表的な論文1-Nと簡単なその内容 (1文程度)]
  • [問題に関する解決策]に関する論文をまとめる.
    • [代表的な論文1-Nと簡単なその内容 (1文程度)]

提案手法

  • [問題に対する解決策]を実現するために[使用した手法]を今回は用意したので,この手法に関する説明をここで述べる.
  • [使用した手法]をどのようにして提案手法としてまとめたかについて説明
    • [提案手法の少し詳細な説明1-N]

実験手順

  • [実験対象データセット]をどうして選択したのかを説明する
    • [理由1-N]
    • [収集方法1-N]
  • [RQ1]をどのようにして解決するのかの手順を述べる
    • [手順1-N]
  • [RQ2]をどのようにして解決するのかの手順を述べる
    • [手順1-N]

結果

  • RQ1: [RQ1]
    • 動機:[RQ1で明らかにすること]について説明する.
    • 手法:[RQ1の手順31-N]
    • 結果:- [RQ1の結果1-N]
  • RQ2: 同上

議論

  • [議論1]
    • [議論1について具体的な話1-N]
  • [議論2-N\
    • 同上

妥当性への脅威

  • 構成概念妥当性
    • [構成概念妥当性への脅威1-N]
  • 内的妥当性
    • [内的妥当性への脅威1-N]
  • 外的妥当性
    • [外的妥当性への脅威1-N]

結論

  • 結論

解説

上の例を見ていただければ分かるとおり,アブストラクト,はじめに,そして結論はかなり粒度が粗く,関連研究から妥当性への脅威については少し細かい粒度になっています.それぞれの細かい内容は箇条書きで列挙していく事を想定しています.

論文構成は論文のストーリーラインを確認して,内容に矛盾がないかや,実験内容に過不足がないかなどを確認することがメインなので,関連研究では具体的な論文,結果ではどの数値を載せるつもりなのか,議論では議論内容と,どのように議論を進めていくのかについて詳細に伝えてレビューをしてもらおうという魂胆です.逆に論文においてストーリーラインをわかりやすく提示したり,書いてある内容についてまとめるアブストラクト,はじめに,そして結論に関しては,この時点では詳しくなくても大丈夫でしょう.4

あくまでも私見ですが,論文の構成を大きく変更したくなるのは,論文のストーリーラインがうまく繋がっていない場合が多いように思います.上に書かれている程度の粒度で書いておけば,ドクターやマスターの学生は十分論文のストーリーラインを把握できるため,この時点で実験の過不足,先行研究の調査不足,議論における矛盾点,これらを修正するために何を(実験,調査,議論)追加すれば良いのか,逆に削除すれば良いのか,また,説明の順番をどう変えれば良いのかについて十分なコメントが可能になります.

また,箇条書きで何を書こうと思っているのかを書き出すため

  • 説明が足りていない要素はないのか
  • 逆にこの論文に載せるには詳細すぎる説明はないのか

についてもレビューをすることが可能になります.

ここでしっかりレビューをしておけば,実際に論文を書いた際に,構成の変更や実験までの手戻りが大きく減り,効率的な論文作成に繋がるかもしれません!5 上を参考にしつつ良い研究ライフを送っていきましょう!

なお,上の内容に関してのマサカリや質問などはいつでも大歓迎です.


  1. あくまで経験上の話なので,強い人たちはそうではないかもしれません.

  2. あくまで経験上の話なので,強い人(略

  3. 上の実験手順に詳細がある場合は,こちらを省略したり,逆に実験手順を省略したりする.

  4. なお,これらは論文を実際に書く際に大量の修正が入ります.何も心配はいりません(ニッコリ)

  5. どれだけやっても,ちゃぶ台がひっくり返ることは往々にして起こりえます.