論文構成レビューで手戻りを減らそう
これは何?
みなさん論文を書いていますか?論文を書くのはとても難しい作業で,何回書いても何回書いてもなかなか良いものを1回で作成することは難しいです.特に,研究を始めたばかりであれば,一部の例外を除けば最初の論文作成は多くの書き直し,章構成の変更,実験のやり直しなどを行うことになるかと思います.1
ただ,構成の変更に関しては,予め構成をレビューしてもらえれば防げる問題であり,かつ,手戻りの際のエフォートが大きいので,構成案を先に作成してレビューをしてもらった方が効率的な印象です.マスターやドクターの学生にレビューをしてもらうだけでも,ちゃぶ台がひっくり返る2ことは少なくなると思います.
また,構成案段階でのレビューでは,文章の量が少ないため,内容に矛盾がないかなど意味的な繋がり,ストーリーラインのチェックなどがしやすくなるという利点もあります.すごいぞ!論文構成案レビュー!
ところが,この論文構成案をどれくらいの粒度で書けば良いのかがなかなか曲者です.特に初めて論文を書く人にすれば,そもそも何を書けば良いのかがわからなくなってしまいがちです.
そこで本記事では,ドクターの学生から見た,どれくらいの粒度で論文構成案を書いて見せてくれると助かるかを解説します.解説のために1つ論文構成案を示していますが,この構成はあくまでも一例である点に注意してください.なお,私はソフトウェア工学を研究している学生であり,他の分野では事情が異なる可能性があります.あくまでも一例として参考にしてください.カッコで囲まれた部分は,各々の研究の具体的な内容に置き換えてもらうと読みやすいかと思います.
論文構成案の例 (以下のカッコで囲われた箇所を具体的な内容に書き換えたものがあるとレビューがしやすくなります)
アブストラクト
はじめに
- [具体的な研究背景]について説明する.
- [具体的な研究背景における問題点]について説明する.
- [解決策として用意したもの]について説明を行い,また,これを採用した理由を述べる.
- 実験対象のデータの説明
- 研究設問
- [RQ1]について,その動機と結果について簡単に述べる.
- [RQ2]について,その動機と結果について簡単に述べる.
- 本研究のコントリビューションとして[コントリビューション1-N]について述べる.
関連研究
- [研究背景]に関する論文をまとめる
- [代表的な論文1-Nと簡単なその内容 (1文程度)]
- [研究背景における問題点]に関する論文をまとめる.
- [代表的な論文1-Nと簡単なその内容 (1文程度)]
- [問題に関する解決策]に関する論文をまとめる.
- [代表的な論文1-Nと簡単なその内容 (1文程度)]
提案手法
- [問題に対する解決策]を実現するために[使用した手法]を今回は用意したので,この手法に関する説明をここで述べる.
- [使用した手法]をどのようにして提案手法としてまとめたかについて説明
- [提案手法の少し詳細な説明1-N]
実験手順
- [実験対象データセット]をどうして選択したのかを説明する
- [理由1-N]
- [収集方法1-N]
- [RQ1]をどのようにして解決するのかの手順を述べる
- [手順1-N]
- [RQ2]をどのようにして解決するのかの手順を述べる
- [手順1-N]
結果
- RQ1: [RQ1]
- 動機:[RQ1で明らかにすること]について説明する.
- 手法:[RQ1の手順31-N]
- 結果:- [RQ1の結果1-N]
- RQ2: 同上
議論
- [議論1]
- [議論1について具体的な話1-N]
- [議論2-N\
- 同上
妥当性への脅威
- 構成概念妥当性
- [構成概念妥当性への脅威1-N]
- 内的妥当性
- [内的妥当性への脅威1-N]
- 外的妥当性
- [外的妥当性への脅威1-N]
結論
- 結論
解説
上の例を見ていただければ分かるとおり,アブストラクト,はじめに,そして結論はかなり粒度が粗く,関連研究から妥当性への脅威については少し細かい粒度になっています.それぞれの細かい内容は箇条書きで列挙していく事を想定しています.
論文構成は論文のストーリーラインを確認して,内容に矛盾がないかや,実験内容に過不足がないかなどを確認することがメインなので,関連研究では具体的な論文,結果ではどの数値を載せるつもりなのか,議論では議論内容と,どのように議論を進めていくのかについて詳細に伝えてレビューをしてもらおうという魂胆です.逆に論文においてストーリーラインをわかりやすく提示したり,書いてある内容についてまとめるアブストラクト,はじめに,そして結論に関しては,この時点では詳しくなくても大丈夫でしょう.4
あくまでも私見ですが,論文の構成を大きく変更したくなるのは,論文のストーリーラインがうまく繋がっていない場合が多いように思います.上に書かれている程度の粒度で書いておけば,ドクターやマスターの学生は十分論文のストーリーラインを把握できるため,この時点で実験の過不足,先行研究の調査不足,議論における矛盾点,これらを修正するために何を(実験,調査,議論)追加すれば良いのか,逆に削除すれば良いのか,また,説明の順番をどう変えれば良いのかについて十分なコメントが可能になります.
また,箇条書きで何を書こうと思っているのかを書き出すため
- 説明が足りていない要素はないのか
- 逆にこの論文に載せるには詳細すぎる説明はないのか
についてもレビューをすることが可能になります.
ここでしっかりレビューをしておけば,実際に論文を書いた際に,構成の変更や実験までの手戻りが大きく減り,効率的な論文作成に繋がるかもしれません!5 上を参考にしつつ良い研究ライフを送っていきましょう!
なお,上の内容に関してのマサカリや質問などはいつでも大歓迎です.